岡山地方裁判所 昭和47年(ヲ)449号 決定 1972年11月21日
申立人
株式会社柿本造船所
右代表者
柿本幸雄
右代理人
一井淳治
相手方
株式会社八潮産業
右代表者
巻田勝朗
主文
岡山地方裁判所執行官木村茂が債権者相手方、債務者申立人間の岡山地方裁判所昭和四七年(ヨ)第二七〇号有体動産仮差押事件の仮差押決定正本に基づいて別紙物件目録記載の物件に対してなした仮差押執行を許さない。
本件異議申立費用は相手方の負担とする。
理由
本件異議申立の要旨は、
(一) 岡山地方裁判所執行官木村茂は、昭和四七年一一月二日岡山県和気郡日生町日生二、五八〇番地において、債権者相手方、債務者申立人間の岡山地方裁判所同年(ヨ)第二七〇号有体動産仮差押事件の仮差押決定正本に基づいて、別紙物件目録記載の物件(以下、本件物件という。)を占有したうえ、これを申立人代表取締役柿本幸雄に保管させ、本件物件に対する有体動産としての仮差押執行をした。
(二) しかしながら、本件物件は建造中の船舶であるから、執行法上は船舶であり、有体動産として執行官が仮差押執行をすることは許されない。
すなわち、本件物件は昭和四七年八月二一日船台上で起工したもので、前記仮差押執行当時、竜骨に鉄板を熔接ずみで船としての外形を具備し、運行用の各種附属機械器具を備えつけ、タンカーとしての油タンク、送油用パイプを具備し、舵を作動するステアリングマシンも船尾内部に据え付けていた。
(三) したがつて、前記仮差押執行は、その執行方法を誤つた違法があるので、主文一項同旨の裁判を求める。
というのである。
そこで右申立人主張を判断するに、前記(一)の事実は、<疎明>により明らかである。
前記申立人主張(二)を検討するに、船舶(商法六八四条、船舶法三五条)は、民法上は動産とされているが、(民法八六条二項)普通の動産と異なり、その価額が高く、形体も大きく、耐久性がある点など不動産と同じような性質を有しているため、実体法上、登記を経て抵当権を設定することができるなど(商法六八六条、八四八条)不動産に準じて取り扱われているが、強制執行法上も金銭の債権に付いての強制執行に関し、右のような船舶の性質を考慮し特に一般の有体動産に対する強制執行と別個に民事訴訟法七一七条以下に船舶に対する強制執行の方法を規定し、執行裁判所が執行機関となり不動産に準じて強制執行をなすべきこととしている。ところで、建造中の船舶に対する強制執行の方法は、建造中の船舶が抵当権の目的とできるとされているのであり(商法八五一条、船舶登記規則三二条以下、競売法三六条)、上叙船舶に対する強制執行に対する特則が制定された趣旨にかんがみ、建造中の船舶が、すくなくとも抵当権の目的となり(船舶登記規則三三条)、あるいは船舶としての実質を備えるに至つた以上は、民事訴訟法七一七条以下所定の船舶に対する強制執行の規定にしたがつて、その執行をすべきであると解するのが相当である。そうして、仮差押執行については特則のない以上強制執行の規定が準用されるから(民事訴訟法七四八条、七五三条)、建造中の船舶に対する仮差押は、執行裁判所が執行機関となり、その執行をすべきことはいうまでもない。
本件の場合、<疎明>を総合すると、本件物件は昭和四七年八月二一日申立人の工場内第一番船台上で、進水同年九月末日、竣工同年一〇月末日予定で起工された別紙物件目録の大きさの五〇〇馬力重油タンカーであるが、右予定工期が若干遅れていたところ、同年一一月二日本件仮差押執行をうけたこと、本件仮差押執行当時、本件物件は、組み立てた竜骨、肋骨(フレーム)に両舷外側鋼板の熔接、油タンクをいずれも完成してこれらの船体および油タンクはエアテスト(空気漏洩検査)により完全であることを確認ずみで、船橋楼は前壁、側壁、天井、床板とも完成し、油パイプおよびスクリューは取付を完了していたこと、内燃機関はスクリューに連結していたが進水前のボルト仮締付の工程を完了し、舵は取付中であつたこと、そして、本件仮差押執行当時の出来高は八五パーセントないし九〇パーセントであつたこと、なお、本件仮差押執行後約三週間にして本件物件は塗装をおえて進水したことが認められ、以上の事実によれば、本件仮差押執行当時、本件物件は船舶としての外形を具備し、自力で水上に浮くことができたのであつて、明らかに船舶としての実質をそなえていたものということができる。
したがつて、本件物件につき前記執行官が執行機関となり、これを有体動産としてなした本件仮差押は、その執行方法を誤つた違法があり、本件申立は理由があるから、これを認容し、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり決定する。
(平田孝)
物件目録
一八〇トン重油タンカ―造船中 一隻
長さ 38.800メートル
巾 7.000メートル
深さ 3.35メートル
吃水 3.200メートル